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上陸しちゃってゴメンなさい。

上陸しちゃってゴメンなさい……台風Tシャツ | Excite エキサイト





「いやーきたわよ。たっぷんたっぷんきた」


「たっぷん? 何が」


「台風に決まってるじゃない。あずさ2号がきてどうすんのよ」


「台風か。そんなレベルの話か」


「今度の台風は自転車並みらしいわよ」


「みたいだね」


「軽そー」


「速度の問題だから」


「知ってるわよ。ちょっとヒューモアを折り混ぜ混ぜなのに」


「なんだよ混ぜ混ぜって」


「電動アシスト付きくらいの速度だってね」


「電動だと自転車に例える意味が分からなくなっちゃう」


「風速62たっぷん」


「またたっぷんかよ」


「テレビ見てると傘が自動でたたまれてるものね」


「自動ってわけじゃないけどね」



「でもね。ワンタッチで開く傘以降、傘に進化が見られないのは世界中の人々の胸のしこりだったのよ」


「乳がん検診行ったほうがいいって話だよね」


「もしここで台風に襲われたらどうする?」


「どうするもなにも家に帰るよ」


「そ、そんな……」


「なに必殺シュート止められたみたいな顔してんだよ」


「キャノンシュートを片手一本で……」


「ナポレオンのシュートかよ。妙に地味だな」


「わたしたちってタップルじゃん?」


「たっぷんひきずってる」


「わたしを置いて逃げるなんてひどい」


「一緒にそこの駅から電車乗って帰りゃあいいじゃん」


「台風を前に何悠長なこと言ってんのよ!」


「普通に切符買って電車乗って帰りゃあいいじゃんかよ!」


「そうやってすぐに声を荒らげるんだから。だから男は獣臭いのよ」


「一応メリットしてるんだけど」


「あーあ。もしここで台風に襲われたらひとりぼっちかあ」


「ていうか天気予報くらい見てこいよ」


「あー。箸にも棒にも掛からない話を聞いていたら本当に台風がきたわ」


「うっそ。自転車並みなのはずなのに」


「だから言ったじゃない。電動アシストだもの」


「そういう問題ではないんだけどね」


「かなりの大きさね。きっと街中に漂う人間の欲望を吸収しているのよ」


「ゴーストみたいじゃんか」


「見て! ケンタッキーのおっちゃんが!」


「あ。飛んでる」


「カーネルが鳥のように飛んでいるわ」


「なんとなく皮肉だな」


「翼をもいでばかりのカーネルが空を飛ぶ。ぷぷぷぷ」


「やめろって」


「どうしよう。あなたはどうやってわたしを守るつもり?」


「守るもなにも早く逃げようって」


「戦わないの!?」


「無理。前提がおかしい」


「わたしたちの愛の力で!」


「なんだよ! いきなり大声出すなよ」


「スカイラブハリケーンで」


「だから無理」
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by Your_sea | 2006-08-21 19:54

ボケオペラ




 ささくれだった気分で、普段はひとりで入ることなんてできないバーの扉を押した。
カウンターには黒髪の女性がひとり。その向こうにはグラスを磨くバーテンダー。
「ここ空いてますか?」
 その女性の横が見たくて、そんなことを聞いてみる。
「ええ」
 彼女はそう答える。照明を落とした店内にあって、その唇は艶かしく赤い。
見るからに寡黙で、しかし伏せがちな目はあらゆる情報を読み取っているであろうバーテンダーに、僕はジントニックを頼む。
 しばし前方の虚空を見つめながら、今日のことやそれから明日のことを考える。
漠然としていて、なぜ今ここにいるのかすら不確かになる。
灰皿を引き寄せると、視界の端に女が映る。指先でカクテルグラスを弾いて、ささやき声のような音が耳をくすぐる。
「明日早いんですか?」






 ない。絶対ない。
そもそもメイドなんてどこの家庭にもいないんだから。
それと同じくらいない。

餃子の王将で「餃子まずい」って言っちゃうことよりなしだから。

大様のアイディアで「餃子おいしい」って言っちゃうことよりなしだから。

「市民プール」って言ったら「区民プールだよ」って言い返すことよりなしだから。






 そして恋に落ちるわけだけど、よくあるよね? 実は彼女って大金持ちのひとり娘でさ。
初めて自宅に招かれたらそりゃあもう豪邸で、池に鯉なんているわけよ。
生茶飲みながら池に落ちたりしてさ、彼女はびっくりしてタオルもって駆けつけてくる。
そしたら彼女も落ちちゃった。一緒に笑ってちょうど夕陽って設定ね。






ないから。どこまでお茶目なコメディ野郎なんだよ。
生茶もって落ちたんじゃさ、濃い持って故意に鯉の池に落ちちゃうんだよ?
さらに恋も生れちゃう。
どんだけ欲張りなんだよ。

成人式の着付けついでに救心飲んじゃうくらい欲張り。
着慣れない着物でも階段で動悸しない。

 とにかくさ。出会いってのはそんなドラマチックじゃないわけ。
どちらかというとあれだよ。なんていうかな、駅で言うと田町。すっげー地味なわけ。
五年ぶりの再会で行った場所が古本屋みたいな感じでさ、妙に地味なの。

一郎の次に次郎って名前付けちゃうくらい地味なの。
でもって三男に三郎って付けちゃうんだから昭和は怖いよね。
付けられた方の気持ち考えたことある? ねえ。三番目の三郎の気持ち。わかる?
これってサード守るのとは違うぞー。同じように単純だけど、そんな花形じゃないぞー。
いわゆる商店街と言えば「○○銀座」みたいな感じ?

 どんだけ銀座なんだよ、って思うじゃない。
三越なくてもすべてが銀座なわけで。
どうでもいいからザンギ食べちゃったりする真夏のこいのぼりなんだよね。
ザンギってなんだか悔いがありそうな名前じゃん? 普通に鳥から揚げかよって文句言っちゃうけど。

ついでに着物に黒帯巻いちゃうくらい欲張り。
何段で階段何段昇るんだよって、もう迷宮入りみたいな話になっちゃう。
三郎みたいに単純じゃなくなっちゃう。
三郎の立場考えて? 三脚だってナンバースリーなわけじゃないんだよ?
三郎は三脚以下かよ! 






 で、「ごく普通にカップルになりました」だってさ。これが難しいよね。
きっとさ、シングルとダブルでどちらが得かなんて喧嘩になるわけよ。
は? 違う違う。
テニスならまだいいよ。トイレットペーパーだよ。トイレ。
ラリーしてるよりはハリーでトイレ行かなきゃならないわけよ。
サービスエースなんて狙ってる場合じゃないわけ。
サービスエリア探してんだよ!


ってごめん怒っちゃった。まだ気持ちがささくれだっちゃって。
それにしても普通のカップルってのがなかなか波乱があるわけでね。


もうさ、初恋の幼なじみに十年ぶりに銀座のプランタンで再会して「次郎くん……」てお兄ちゃんの名前読んで感動されちゃうくらい波乱なの。

びっくりまんチョコくらい貼らんなの。

もったいないもん。


一反木綿の遺体が豆腐屋で発見されるくらい波乱なの。
どんだけ悲劇の妖怪なんだよって思っちゃうじゃん?
それ言ったらさ、垢舐めがお祭りのカレー舐めちゃって毒殺されるくらい波乱なの。
結局垢舐めっていい奴だったのか迷惑だったのかわからないまま伝説が終わっちゃうわけ。
すげー波乱。
ミッキーの姿をしたテロリストが暴れるくらい波乱。
ジーンズ洗ったらベーコンになっちゃうくらい波乱。



ならないから。






で、なんの話だっけ?
ああそうそう、トラバでぼけましょうに参加していたんだった。
でもって「唯一つだけ普通でなかったのは・・・」なんだけど……。






そうここまで読んでくれたあなたには分かるはず。

お題をよーく読んで欲しい。



「唯一つだけ普通でなかったのは・・・」






「唯一」 「つだけ」 ???






そう。唯一普通でなかったのは、このお題だったのです!(エネルギー切れ)






 
 

「第9回トラバでボケましょう」開催します。

■□■□■□■【トラバでボケましょうテンプレ】■□■□■□■□■
【ルール】
 お題の記事に対してトラックバックしてボケて下さい。
 審査は1つのお題に対し30トラバつく、もしくはお題投稿から48時間後に
 お題を出した人が独断で判断しチャンピオン(大賞)を決めます。
 チャンピオンになった人は発表の記事にトラバして次のお題を投稿します。
 1つのお題に対しては1人1トラバ(1ネタ)、
 同一人物が複数のブログで1つのお題に同時参加するのは不可とします。

 企画終了条件は
 全10回終了後、もしくは企画者が終了宣言をした時です。

 参加条件は特にないのでじゃんじゃんトラバをしてボケまくって下さい。

 ※誰でも参加出来るようにこのテンプレを記事の最後にコピペして下さい。

 企画元 毎日が送りバント http://earll73.exblog.jp/
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
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by Your_sea | 2006-08-19 22:04

刑事黒カレー 合コン編



「今日の合コンさ、しっかり頼むな」


「まかせとけ。で、何人面通しすりゃいいんだ?」


「あのさ。今日は仕事の口調は止めてよな」


「ああ悪い。ついついサッカンの癖で」


※ 「サッカン」……警察官


「おまえほんとに仕事から離れられないんだなあ」


「待ち合わせまで時間あるな」


「うん。これは合コンの鉄則だよ。こうやって遠目から待ち合わせ場所に現れる相手を観察してこちらの作戦を練るわけよ」


「なるほど。シキテンなら慣れてる」


※ 「シキテン」……見張り


「なんかさ。いちいち解説入ってるよ?」


「あ、お嬢さん方が来た」


「いいねえ。なかなかの」


「面だな」


「あ、うん。面だよね」


「じゃあ行くか」


「ごめんごめん待った~? とりあえず店予約してあるからさ。いこう」


「なあ。どいつもこいつも完黙決め込んでるぞ?」


※ 「完黙」……完全黙秘


「いやほら、あのさ。緊張してるんだってお互い」


「なるほど。で、ここが現場か?」


「は~い。じゃあ皆さん今日はこの店で宴会です。鶏肉が最高の店なんだ」


「広い店だな。まったくお宮だな」


「いやいや。迷宮入りしてどうすんだよ」


「串焼きが売りなのか?」


「そうそう。みんなも好きなの頼んでね」


「タレだ? 事件性は?」


※ 「タレ」……被害届


「事件とかないから。ほらおまえ積極的に話しかけろよ。ていうか解説が妙に気になる」


「まずは出身地から洗おうか」


「尋問かよ」


「なんだって? そうか北海道か。おふくろさんがいるんだろう?」


「北海道っていうとホタテとかいいよなー。夏はどうするの? 実家に帰るの?」


「高飛びか?」


「普通に海外旅行、とか聞けよ」


「なに? 彼氏と別れたばかり?」


「そっかそっか。いろいろあるよね」


「つまりこの話はカク秘だな?」


※ 「カク秘」……最上級極秘事項


「おおげさにするなよ」


「で? その浮気男に貰ったもんはシズメタんだろう?」


※「シズメル」……盗品を現金化する事


「盗品じゃないと思う」


「まあいい。忘れろ忘れろ。それで今は凝っていることとかあるのか?」


「なぜずっと尋問口調なんだって」


「なに? サプリ? タブレットだと?」


※「タブレット」……LSD


「あの」


「おい! その女の飲みかけをカソウケンに回せ!」


※「科捜研」……科学捜査研究所


「待てって」


「まったく最後まで吐かなかったな」


「あんだけ飲んだのにね」


「しかしなかなかいい女だった」


「ああいうのが好みなんだ?」


「さて。あの女のヤサヅケといくか」


※「ヤサヅケ」……住居を特定すること。


「ストーカーか」


「うるさいぞ! ブンヤのくせに」


「もう意味不明になってきてる」
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by Your_sea | 2006-08-17 22:15

餃子と三日月ランデブー

おおらかだった時代の「理科」の本を読む | Excite エキサイト




 本当におおらかですね。
ある種ユーモアも感じます。科学が発展しているからこそ、こんな回答もありなんじゃないかと思ったりもします。
ということで今日買ってきました。
熟読するとなかなか興味深い内容です。ご紹介します。



「塩は海ですか?」


A. いいえ佐藤くん(佐藤くんが誰なのかは不明)。海は塩ではありません。
 塩が海なのでもありません。
 なぜならば、干物が売れなくなるからです。


 とこうきました。
なかなか我々の真意を突いてきます。
こんな質問もありました。



「宇宙はどれくらい広いんですか?」


A. 2LDKよりもひろいんです!



「やくみつるは何のちゅうどくなんですか?」


A. はなまるしか仕事のないやくまるくんをごらんなさい。彼は奥様ちゅうどくです。
 おのずとやくみつるの症状もわかるでしょう?



 かなりブラックなのかそうでもないのか不明な回答が目立ちます。



「村上ファンドと村上サンドはどちらがおいしいですか?」


A. サンドに決まってるだろう。



 急に怒ってしまう回答もあります。上記は254ページ中段にあります。
これにはやや驚きました。村上サンドに美味しさ軍配が上がるのは同感ですが、ちょっと厳しいですよね。



「オシムジャパンはつよいですか?」


A. 「2点勝っているけれど、まだ試合には負けていない」



 わかるようなわからない回答です。
さらに駄目押しのような駄洒落でしめています。



「イエメンのサッカーはともかく、イケメンでないことは確かだ」



 さらにわかりません。
こうなってくるとこの本の虜になってきますね。



「愛情ってなんですか?」


A. 30年ローンで買ってしまった形のない負債。たいてい夫妻になっちゃう。




すべてフィクションですのでご了承ください。
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by Your_sea | 2006-08-09 21:26

チグーミ



 チグーミが流行り出したのは半年前のことだ。
はじめは渋谷あたりの高校生から発信されたという噂が主だった。
しかし実際のところは、西新宿のオヤジたちが広めたという噂もある。
でどころが分からないくらいに、チグーミは急速に広まった。

 やや遅れを取ったが、僕も今日チグーミを手に入れた。
手のひらほどの大きさで、恥ずかしがりやだからすぐにポケットに逃げ込んでしまう。
きゅうきゅうと小さく鳴くところが、なんとも可愛い。
お腹がすくと小さな鼻を出してきて、ふにふにと周囲の匂いをかぐ。その仕草がまた可愛い。
それから様子をうかがいつつ、頭を出してきて、黒目がちの目で周囲を窺うのだ。
僕は人差し指だけで頭を撫でてやる。意外に弾力のある体毛が心地よい。

 チグーミが誰しものポケットに入るようになってから、ずいぶんと社会は変わったと思う。
例えば電車だ。
「ご乗車中はチグーミを離さないようお願いします。餌やりなど離す場合には、デッキでお願いします」
そんな放送があたりまえになった。
チグーミはソーセージだとかゆで卵を食べる。小さな頭を小刻みに揺らして齧りつく姿は、朝のラッシュにあっても人々を和ませる。

 彼女は僕よりもずっと前にチグーミを飼っていた。
まだ三度目だったろうか、緊張ばかりのデートのときに胸元から飛び出てきたチグーミに、僕はのけぞってしまったものだ。
「あのねあのね。名前付けちゃった」
「へえ。珍しいね」
「あのねあのね。ちび」
「へえ。そのままだ」
「うん。そのままー」
 彼女は笑って、チグーミの頬を指で撫でた。その小動物はくすぐったそうに身をよじって、その仕草があまりにも可愛かったので、僕も買ったのだ。

 僕はチグーミに「バロン」と名付けた。
ちょっとお堅いかなって思った。まあしかし、上司は「エニグマ」とか付けているし、要はなんでもありなのかなって思ったのだ。
ミニペットというのが売りだったチグーミだったが、どうやら我々は予想以上に依存してしまったようだ。
どこにいくにもチグーミがいなければ不安になってしまう。
常に時間を気にして、何度も何度もチグーミの様子を窺ってしまう。彼らの寿命は二年程度で、死を迎える前にチグーミ変更をするのが主流だ。
残酷と思うかもしれないが、誰だって毎日一緒に行動を共にするチグーミの死を見たくはない。
だから寿命が切れる前に新しいチグーミと交換するのだ。

 僕のチグーミと彼女のチグーミは、とても仲が良かった。
あれは横浜の山下公園だったろうか。真っ黒な海が眼前に広がっていて、僕らはベンチに腰掛けていた。
僕の胸ポケットからチグーミが頭を出して(こいつは僕の胸ポケットが好きで、おかげで煙草を辞められた)、呼応するかのように彼女のチグーミがハンドバッグからひょっこりでてきた。
まるで出会った頃の僕らのように、ゆっくりと、もどかしく二匹のチグーミは近づいていった。
僕の腕をゆっくりと伝っていバロンと、彼女の首周りを一周してから照れくさそうに腕を伝っていく「ちび」。
僕らはくすくす笑いながら見守った。
どこかにある船が汽笛を鳴らして、ちょうど雲間から月が見えた。大きな月だった。
それからのことは、早回しのようであまり記憶にない。
僕のチグーミが危うげなバランスのままちびに近寄って、我々の顔に花のような笑みが咲いたと同時に、ひと噛みでちびの首が失われた。

 彼女の指先から手首にかけて一筋の血が流れて、それはまるで彼女自身から流れる血液のようだった。
僕は衝動的にバロンを掴むと、ベンチの縁に叩きつけた。
ちびの首がぽろりとこぼれ落ちて、やはりそこにも小さな小さな血の滴が流れ落ちた。
彼女はもう何も言葉を発することもなく、ベンチを後にした。
小さな手にはちびの亡骸が握られていて、何か言葉をかけようとした僕は、再び夜空を横切る汽笛に、存在ごとかき消されてしまった。
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by Your_sea | 2006-08-07 21:46

ストーリーレシピ1 海鮮チャーハン



 同期のエミが結婚することになった。まず8月にプーケットに新婚旅行に行って、その後に簡単な結婚式を挙げるのだという。
仕事中に電話がかかってきて、帰りに寄れないかと誘いを受けた。
彼女のマンションは帰り道にあるから問題はないのだけど、どこか違和感があった。
その違和感はなんなのだろうと考えてみたが、やはりエミが結婚するからなのだろうと思った。

 都心の夕焼けはどこか不気味だ。
闇が侵食して、巨大なビル群を飲み込んでいくような焦燥感にとらわれる。
彼女のマンションは永福町にある。駅前の商店街は穏やかで、赤い陽光のせいで新鮮とは思われない野菜たちも、どこか愛嬌がある。
タマネギと人参と、それからレタスを買った。ついでに魚屋にも立ち寄って、イカとタコを買う。
「あ。もしかしてそれって」
 エミは玄関を開けもせず、おそらくドアスコープ越しにくぐもった声で言った。
「買ってきたよ。どうせないんでしょ? 食材」
「ない」
「ていうかさ、ドア開けてよ」
「ああ。はいはい」
 何度か来たことのある部屋だが、いつもとは何かが異なっていた。
天井や壁に視線を這わせながら居間にたどり着くと、静かな音量でモーツァルトの交響曲第40番が流れていた。
「ねえ。どうしたのこの曲」
「はい?」
「いやだからさ。なぜにモーツァルト?」
「ふふふ。これはね、ジョージ・セルが指揮している67年くらいの録音だったかな?」
「そういうことでなくてさ。今までまるで聞かなかったのに」
 エミは手のひらをひらひらを振って、わざとらしくソファーを指差した。
結婚を控えた女はこうも変わるのだろうか。所詮相手の男がクラシックにうだうだと拘るような趣味を持っているのだろう。

 バリ島で買ったというエミにしては抜群にセンスの良い籐の棚は、やはり今日も美しかった。
ポプリがさりげなく乗せられていて、かすかにゼラニウムの香りがした。
彼女は赤いエプロンをして、すでに戦闘態勢といったいでたちだ。
「そろそろ作る?」と僕はあくびをかみ殺す。
「では手合わせ頼む」
「なににする?」
「チャーハン」
 チャーハン。彼女の結婚相手の誕生日に振舞われるであろうチャーハンを思い浮かべる。あまりにもお祝い事にふさわしくない滑稽なチャーハンというメニューに、僕は苦笑する。
「いいの? そんなんで」
「いいのいいの。だって美味しいチャーハンてなかなかできなくて」
 早速僕はキッチンに立って、「ビール」と注文する。
すぐに冷やしたグラスとギネスが差し出されて、黙っているとエミはやや眉毛を吊り上げてグラスに注いだ。
文句も言わずに人の命令に従うことは、滅多にない。
料理が終わったら、彼女の反撃が始まるに違いない。いや、そもそも料理に失敗したときの罵倒は凄まじいものになるだろう。少しだけ指が震えた。だから一気にギネスを飲み干した。
「あまり細かいことは抜きにするけどね。素人が家庭で上手にチャーハンをつくる秘訣だけ覚えてもらうよ」
「はい教官。あー緊張してきた。バッハに変えようかな」
「その必要はないと思うけどね」
「そうなんだ?」
「誰の影響?」
「彼」
「ふーん」
 ステンレスのボウルを取り出すと、適当にご飯をよそって卵をふたつ落とした。
それをエミにかき混ぜさせている間に、僕はタコとイカを切った。
「最初にご飯と卵を合わせる。これが秘訣なの?」
 彼女はかしゃかしゃと混ぜながら言う。
「そうそう。それだけでぱらぱらご飯は約束されるよ」
「そのさ、イカをさばくの面倒そう。でも彼ってイカ好きでさあ」
「ふーん」
「なんか不機嫌?」
「別に」
 ワケギを細かく切って、一口大になったイカとタコに豆板醤とチリパウダーを多めに混ぜた。


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「ちょっと淋しいんでしょ?」
「なにが」
「先にわたしが結婚しちゃって」
「なんで」
「ふふふ。まあいいや。おみやげ何が良い?」
 口の中で適度に崩れていく米の食感を楽しみながら、僕は考えた。
バッハは一日の最後には相応しいが、考え事をするには少々邪魔なものだと、初めて分かった。






1. イカとタコは細かく切っておく。
2. ご飯はボウルによそって、あらかじめ生卵と混ぜておく。フラクタルの原理は不要。
3. ねぎはみじん切りにして、しょう油、ごま油、こしょうと合わせておく。
 フライ返しを下に入れて大きく返す。強火でご飯を切るようにして、パラパラの状態になるまで、しっかり炒める。パラパラ踊っても良い。
4. フライパンを煙が出るくらいまで熱してもう火も出しちゃう。そしてサラダ油を広げる。イカとタコを炒める。
5. 合わせておいた3を加えてさらに炒める。ちなみに5-3は2。
6. 味をみて塩、こしょうをする。味は目で見ずに舌で感じる。

 美味しいができる。
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by Your_sea | 2006-08-03 23:50

さらばわたしの牛



 プールなんて久しぶりだった。
「流れすぎるプール」というのがあって、幼い頃の記憶を喚起されたわたしは、喜び勇んで飛び込んだ。
それはそれは流れた。
素麺は絶え間なく流れていたし、彼との約束も子どもの遠足もその子どもの弟かもしくは妹になるはずだった生命も流れた。
 泣きじゃくって流れるわたしを引き上げてくれたのは大きな牛で、「ちょうど今朝ビザがおりた」のだと説明してくれた。
「やっとですよ」
「ビザが?」
「ええ。長い間待ちましたよ」
「日本が好きなの?」
「いいえ」そう言って牛は、足元の人工芝を食むのです。

 牛の相手なんて退屈だったのもあるが、「波の出すぎるプール」へ移動するにはさして時間がかからなかった。
パラソルやチェアも飲み込む波は、どこか潔い気もした。
わたしは何度も巨大な波に飲まれながら、一度胸をプールの底にしこたまこすりつけてしまった。
「赤くなっていますよ」
「でしょう。痛かった」
「物理的な痛みなんてすぐに忘れますよ」
「そうね」生意気な牛だと思った。「こんな傷はすぐに癒えるもんね」
「ですです。本当に苦しい物事は、目には見えないんですよ」
「聞いたセリフね」
「はい」
 切り刻んでサーロインだけ取り除いてやったっていいんだ。牛のくせに。

 牛はのんびりとした足取りで、隣のプールに向かった。
「飛び込まれプール」というものだった。
牛は小さく間延びした声で鳴いてから、ぞぶんと飛び込んだ。
口の端から水滴を垂らして、のそのそと階段を昇っていく。
「まあた飛び込むんだ」
 わたしのひとり言は、牛に届くことはない。牛のくせに。そう悪態をついてみる。

 水色なのは湛えられた水ではなくて、それを覆うプールの器自体の青さなのだ。
そのことに気がついたのは首だけ出して水に浸かってからだった。
上空を見上げれば、水底のような空がわざとらしく広がっていて、ああこれはもしかすると君の海なのかもしれないと考えてしまう。君って? わたしは苦笑する。君って誰だろう。天と地が逆転した場所で、わたしはよくわからなくなってくる。
 愉快な気分になってさらに首をそらせば、遥か高いところにある飛び込み台から牛が首だけ出している様子が窺える。もほほほと鳴いたのだろうか。牛の首が斜めにそる。
「さあおいで」
 わたしはまたひとり言を漏らす。
牛は緩慢な動作で、その巨体を重力に乗せていく。
醜いなあ。
わたしは心底呆れてしまう。両手を差し出して、もう一度空を眺める。きっとあのもっさりとした牛を抱えることはできないのだと確信する。だから腕を引っ込めて、かわりに目を見開いて笑ってみる。空はどんどん狭くなって、黒と白のブチに覆われる。もう! なんて言ったらあまりにもつまらない。ぎゅーと押しつぶされるなんてのもだめ。なんでこんなときに気のきいた言葉が出てこないんだろう。

 こんなに空は美しいのに。
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by Your_sea | 2006-08-01 22:30

さよならベーグル



 その日もいつものように駅の北口で彼と待ち合わせていてちょうどドコモのキャンペーンをやっていて毎度のごとく先に着いてしまったわたしはぼんやりと眺めていた。
太ももがあらわになった若いキャンペーンガールが「ぜひぜひお手にとって写真をとってみてくださーい」と微笑んでいるのだがそんな彼女のことを一眼レフの大きなカメラで収める男たちがなにやら滑稽だった。
地方都市の駅だからかキャンペーンに励む彼女らはさしてプロポーションもよくなく良い意味でなく平坦な日本人的な顔立ちだなどとほくそえんでいるわたしはやはり性格が曲がっているのかもしれない。なにせもうわたしは三十になろうとしていて若さというものに無条件に報復したい衝動に駆られてしまうのかもしれない。自分では分からないけれども。

 改札から彼が出てきて小さく左手を挙げた。わたしは小さく頷くのだがこれは我々がいつも交わす挨拶だ。いつからこういうやりとりをするようになったのかは不明だがまあどこにでもいる平凡なカップルの平凡な儀式なのだ。
黒いTシャツに色落ちしたジーンズでたしかあのジーンズはビンテージもので二万円くらいしたらしいがどうにもみすぼらしい。猫背が問題なのだろうかそれとも上下のコントラストが強調されすぎているのが原因か。白いシャツにすればまだよかったのに。
「待った?」
「二日くらい」
「怒ってるの?」
「いえいえ。こんなに素敵な雨空なのになぜ怒るのよ」
「いつ来たの?」
「だから二日前だ。わたしは空腹だ」

 彼はデパ地下のパン屋に連れて行ってくれた。
「とりあえずさ。サンドウィッチでも買って公園に行こうよ」
「うんうん。雨の公園なんて最高なチョイス」
「あ。そっか。雨だった」
「いいわよ。空いてるだろうし」
 わたしはベーグルを買った。ピザパンやゴルゴンゾーラをたっぷり使ったチーズチャパタも気になったがどうしてもこのベーグルが気になった。森林を分け入って白樺に手をかけてひと息ついたら足元にもっそりと落ちているような不思議な色合いのベーグル。
「サンドウィッチは?」
「うーん。どっちでもいい。わたしはこれをとにかく買う」
「へんなの」
 落胆した表情を浮かべる彼を無視してわたしはベーグルをひょいと頭に乗せた。思ったとおりだった。ぴったりとベーグルは頭頂部でわたしの一部となり帽子のような天使の輪のような奇妙な安らぎを与えてくれる。
「なに、おい。なにやってんだよ」
 わたしはそのままレジまで歩んで「ごめんなさいね。すぐに使いたかったから」とアルバイトの女の子に笑いかけた。

 どうにもしっくりこないようで彼は何度も「やめなって。みっともないよ」と言うのだがそれがまたわたしの優越感を高めるのだった。
「お腹が空いたらいつでも食べられるしね。これって最高のベーグル活用法」
「そういうことでなくてさ」
「こうやって斜めにかぶれば皇室っぽくない?」
「ない」
 そっか。ないか。しかしわたしは頭にベーグルを乗せて歩くことに完璧なまでの美しさを見出してしまった。これほど機能的で感性に訴えかける情景などないじゃないか。問題は雨だった。傘なんて差す気にもならなかったからすいすいと歩き続けたのだが公園に着く頃にはすっかり全身が湿ってしまって同時に頭上のベーグルももちもちを通り越してしっとりしすぎてしまっていた。ひょいと頭から取ってひと口齧ってみるともそもそ感と湿った感触でどうにも美味しくない。ああまったくもう美味しくない。
 わたしは悔しさのあまり立ち止まって先に歩いていた彼がちょうど振り返って心配そうな顔をしたのでその顔めがけて歯型のついたベーグルを思い切り投げてやった。
次はカレーパンでも頭に乗せようかなってそう思うのだった。
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by Your_sea | 2006-07-24 21:23

フェイント



 高校時代からの友人に、誕生日プレゼントを貰った。
彼は小学校の頃からサッカーをやっていて、だからだろうか。スパイクが贈り物だった。
「あのさ」
 煙の立ち込めたHUBで僕は困ったように言う。
「手に入れるの苦労したよ。イングランド製」
「まあありがたいんだけどさ。ほら」
「なに」
「サッカーできないんだよね。僕は」
「ああなるほどね。でもそれってシティ用だから」
 大学の誘致を繰り返してきたこの町は、こういった安酒場は妙にうるさい。
未だに一気飲みをする若者がいることに驚くばかりだった。
「シティってあれ? 街でってこと?」
「だよ。この靴のすごいのはさ」ここで金髪の男が嬌声をあげる。
「はい?」
「いやね。すごいのは常人離れしたフェイントができることなんだよ」
「へえ」
「信じてないだろ」
「まあね。だって僕はサッカーできないし」
「西田敏行みたいなセリフばかり言うなよ」
「なにそれ」
「なんでもないよ」

 気が進まなかったが、僕はその靴を履いて街へ出た。
こつこつとアスファルトを刻む音は心地よかったが、どうにも服装に合わないようにも思えた。
ところがだ。スピードを緩めずに路地を曲がってきた車を、無意識のまま不思議なステップでかわす事ができた。
左足が後方に引っ張られ、それを軸に体ごと反転して回避したのだ。
これほどの敏捷性が僕に秘められていたのか、それともこの無骨な靴のせいなのか。

 いくつか特筆する出来事が起こった。
歌舞伎町を酩酊して歩いていた夜半のこと。
前方から見た目の凶悪さならサファリパーク以上な男たちがやってきて、
これまた運悪く「ガンを飛ばした」などといちゃもんをつけられたことがあった。
願を飛ばしたい気分だったが、そんなつまらないジョークは通用しない。
血気盛んで少し献血でもしてきたほうがいいと思われる最年少が僕の胸倉をつかみ、
いや、正確にはつかもうとして、次の瞬間僕は彼の背後に回っていた。
ここでも意識しない不可思議なステップで、これは文字には現せない。
なぜなら僕自身、どんな足取りで彼の背後に回ったかすら分からないからだ。
とにかく男たちがいくら僕を捕まえようとしたところで、僕の体はボクサーのように、
いやいやそれ以上の身のこなしでフェイントをかけていくのだ。
まさに天性のドリブラー。小太りなマラドーナを思い出した。

 その日、お台場に僕はいた。
今から思えば、なぜこんな日にこのサッカーシューズを履いてきてしまったのだろうかと悔やむ。
そろそろ結婚を申し込もうと考えていたユカリと、お台場のクルーズ船に乗ったのだった。
彼女はその晩も美しく、なによりも端正で彫りの深い顔立ちにやや太めな二の腕というアンバランスが僕の好みだった。
僕は数週間かかって高くもなく、それでいて陳腐でもない指輪を、もちろんユカリに良く似合う指輪を懐にしまっていて、
青い光が散りばめられた街が遠くに見える船の上で、ひとしきりタイミングを狙っていた。
「あのさ」
「なあに」
「これ」
「あ」
「いやね」
「ありがとう。どうしてどうして?」
「いやね」
「うれしすぎる」
 そんなやり取りがあって彼女は小さな小さなダイヤの指輪を、薬指に通してくれた。
この瞬間の喜びといったらなかった。
自慢げに手の甲を僕にかざし、ユカリは美しい笑顔のまま僕に身を寄せてきた。
それは完璧なフェイントだった。
僕の足は華やかにステップを刻み、体を預けてきた彼女を見事にかわしたのだ。
勢いあまったユカリは夜の海に転落し、その暗黒に落ちていく刹那、薬指のダイヤがかすかに光ったことを、僕は今でも覚えている。

 
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by Your_sea | 2006-07-22 10:00



「わたしの恋愛には常に犠牲があった。

 今回の恋愛は幾人もの人々を絶望に追いやった。

 しかしこれほどわたしは人を愛した事がなかったし、
 
 これからもないのだと思う。

 誰も傷つけずに、祝福される恋愛は映画の中にたくさん見てきた。

 けれどすべて嘘のような気もしていた。

 実際に嘘なのかもしれないと今は思う。

 わたしは多くの人々を傷つけた。

 しかしこの愛はわたしのすべてだった。

 最も情熱に溢れ、最も苦しい恋愛であった」
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by Your_sea | 2006-07-19 19:00